背任事件で最初に見るのは、会社に損失が出たかどうかだけではありません。本人がどのような仕事を任され、どこまで判断する権限があったのかを確認します。
経営判断や取引の失敗と、背任罪が成立することは同じではありません。一方で、会社のための判断だったと説明するだけで済む事件でもありません。契約書や稟議書、メールなどから、当時の経緯を確かめる必要があります。
背任事件で問題になるのはどのような場面か
背任は、会社などのために事務を処理する人が、任された仕事に背く行為をし、会社などに財産上の損害を与えた場合に問題になります。
たとえば、取引条件を決める立場の人が、会社に著しく不利な契約を結んだと疑われる場面があります。取引先や第三者へ便宜を図り、本人が個人的な利益を受けていたのではないかと疑われることもあります。
支出を決める権限を持つ人が、社内手続を通さずに会社のお金を使った場合も、経緯の確認が必要です。ただし、手続に違反したことや、結果として損失が出たことだけで、背任罪が成立するわけではありません。
本人が会社の利益を考えて判断したのか、自分や第三者の利益を図ったのか。当時分かっていた事情を基準に見ていきます。
本人の立場、権限、行為の目的を確認します
まず、本人が会社などのために事務を処理する立場だったかを確認します。そのうえで、契約や支出について、どのような任務を負っていたのかを見ます。
社内規程に反していても、本人に一定の裁量が認められていた場合があります。反対に、形式上は権限があっても、その権限を本来の目的とは違う形で使ったことが問題になる場合もあります。
背任罪では、自分や第三者の利益を図る目的、または会社などに損害を加える目的があったかも問題になります。会社の利益を考えた判断であれば、結果だけを見て背任と決めることはできません。
ただし、「会社のためだった」という本人の説明だけで判断されるわけでもありません。決定までの経緯、取引条件、利益を受けた人、社内への報告内容を確認します。
| 確認項目 | 確認する内容 | 主な資料 |
|---|---|---|
| 本人の任務 | どの仕事を、誰のために任されていたか | 契約書、職務分掌、社内規程 |
| 権限の範囲 | 本人の裁量内か、権限を超えていたか | 稟議書、決裁記録、取締役会資料 |
| 行為の目的 | 会社のためか、本人や第三者の利益のためか | メール、チャット、送金履歴 |
| 会社の損害 | どの行為によって、どの損害が生じたか | 会計資料、取引記録、評価資料 |
| 承認や社内慣行 | 事前・事後の承認や、同様の取扱いがあったか | 議事録、過去の稟議、関係者の説明 |
契約書や稟議書を、前後の経緯と一緒に見ます
背任事件では、契約書、稟議書、社内メール、チャット、会計資料、送金履歴などが確認されます。一通のメールだけでなく、判断に至るまでの流れを見ることが大切です。
取締役会や上司の承認があったか、ほかの担当者がどこまで関与したかも確認します。同じような取引が過去にも認められていたのであれば、その記録も必要です。
会社側の内部調査では、本人に不利な資料だけが示されることもあります。本人の説明と合う資料がないか、時系列に沿って確認しなければなりません。
メールや会計データを削除したり、関係者と説明を合わせたりしてはいけません。証拠への働きかけを疑われ、身柄の判断にも影響するおそれがあります。
横領・詐欺や民事上の責任とは分けて考えます
横領は、本人が預かり管理している他人の物やお金を、権限なく自分のために処分した場合に問題になります。背任は、任された事務に背く行為によって、会社などへ財産上の損害を与えたかが問題になります。
詐欺では、相手をだまし、その説明を信じた相手に財物や利益を渡させたかが中心になります。同じ会社内の問題でも、財産を得た方法や本人の立場によって見方は変わります。
詳しい違いは、千葉の財産犯罪のページで案内しています。相手への説明内容が問題になっている場合は、千葉の詐欺・特殊詐欺事件もご確認ください。
会社に損害が生じた場合、損害賠償などの民事上の責任が問題になることはあります。しかし、民事上の責任があることと、背任罪が成立することは別の問題です。
逮捕と在宅捜査のどちらになるかは事件名だけでは決まりません
会社や警察から説明を求められた後の流れ
- 説明を求められた内容を記録する
- 契約書、稟議書、会計資料を保存する
- 本人の立場と権限の範囲を確認する
- 判断の経緯と会社の損害を整理する
- 取調べ、会社対応、被害回復の方針を考える
背任事件でも、逮捕される場合と、在宅のまま捜査が進む場合があります。事件名だけで、どちらになるかを断定することはできません。
住居や連絡先が明らかか、呼び出しに応じているか、関係者へ接触していないか、資料を隠すおそれがあるかなどが確認されます。会社の関係者へ繰り返し連絡することは避けてください。
警察や検察からの呼び出しが任意であっても、軽く考えるべきではありません。取調べの前に、いつ、誰と、何を決めたのかを、資料と照らしておく必要があります。
ほかの関係者の説明に安易に合わせる必要はありません。覚えていないことを推測で補わず、自分が確認できる事実と、確認できない事実を分けて説明します。
会社への返金や謝罪は、方法を決めてから行います
会社への返金や被害弁償は、その後の処分で考慮される場合があります。ただし、返金しただけで背任罪が成立しなくなるわけではありません。
示談が成立しても、必ず不起訴になるとは言えません。本人の立場、行為の目的、損害の内容、会社側の意向なども含めて判断されます。
会社へ本人が直接連絡すると、責任を認めたと受け取られたり、関係者への働きかけを疑われたりすることがあります。謝罪や返金を考えている場合も、事実関係を確認したうえで連絡方法を決めます。
退職、懲戒処分、損害賠償請求が刑事手続と並行する場合もあります。会社との話し合いと、刑事事件への対応を混同しないことが必要です。
会社の内部調査で説明を求められた段階や、警察から呼び出しを受けた段階では、相談を検討してください。複数の弁護士から説明を受け、方針や費用を比較して決めても構いません。
