不正アクセス事件では、IDやパスワードを知っていたかだけではなく、その時点でログインする権限があったかを確認します。以前は許されていたとしても、交際終了や退職によって状況が変わっている場合があります。
また、スマートフォンを直接操作した場合と、通信回線を通じてSNSや会社システムへログインした場合は、同じ扱いではありません。何を、どの端末から、どのように操作したのかを分けて考えます。
他人のIDを使った無断ログインが問題になります
不正アクセス禁止法では、通信回線を通じ、他人のIDやパスワードなどを使って、利用を制限されたコンピューターへアクセスする行為などが規制されています。
元交際相手のSNSやメール、家族のウェブサービス、勤務先の社内システムへログインした事件がその例です。パスワードを推測して入力した場合だけでなく、以前教えられたパスワードを使った場合も問題になることがあります。
一方、手元にあるスマートフォンを直接操作し、端末内の写真などを見ただけのケースは、不正アクセス禁止法の要件を満たさない場合があります。ただし、行った操作によっては、別の法的問題が生じます。
不正アクセス以外の事件との違いは、千葉のその他の刑事事件で案内しています。
過去の承諾と、アクセス時の権限を分けて見ます
交際中にパスワードを共有していた、在職中は業務で利用していたという事情があっても、その後もアクセスしてよいとは限りません。
交際が終わった後、異動や退職の後、会社から利用停止を告げられた後にアクセスした場合は、その時点の権限が問題になります。
「まだ利用できると思っていた」という説明がある場合は、その根拠を確かめます。会社の利用規程、上司からの指示、相手とのメッセージ、アカウントの共有方法などが手がかりになります。
ログイン後にデータを閲覧、変更、削除、送信した場合は、その操作も別に確認します。無断ログインだけでなく、行った操作によって別の犯罪や損害賠償が問題になることがあるためです。
| アクセスの対象 | 権限について見る点 | 操作の範囲 | 主な資料 |
|---|---|---|---|
| 個人のSNS・メール | 本人の承諾が当時もあったか | ログイン、閲覧、投稿、送信 | ログイン履歴、通知、メッセージ |
| 会社のシステム | 担当業務や退職後も権限があったか | 閲覧、取得、変更、削除 | 利用規程、権限表、操作ログ |
| 共有アカウント | 誰が、どの目的で利用できたか | 通常業務か、目的外の操作か | 社内連絡、運用記録、端末情報 |
| 端末の直接操作 | 端末を操作する承諾があったか | 端末内の閲覧、アプリの操作 | 端末の状態、当事者のやり取り |
アクセスログだけでなく、端末と認証記録も見ます
捜査では、ログイン日時、接続元のIPアドレス、使用された端末、認証通知などが確認されます。会社のシステムでは、閲覧やダウンロード、変更の履歴が残っている場合もあります。
IPアドレスが一致したというだけで、操作した人まで直ちに決まるわけではありません。同じ回線を複数人で利用していたか、端末を誰が管理していたかも見ます。
アカウントの回復メール、二段階認証の通知、ブラウザの履歴、会社とのメールなども資料になります。本人の記憶と記録が違う場合は、その理由を考えます。
履歴、アプリ、メールを削除したり、端末を初期化したりしないでください。以前使っていたアカウントへ再びログインし、記録を確かめようとすることも避けるべきです。
端末の提出を求められたら、依頼の内容を確認します
- 誰から、何について連絡を受けたかを記録する
- IDやパスワードを知った経緯を時系列にする
- アクセス時の権限と行った操作を分ける
- 端末や手元の記録を操作せずに保管する
- 取調べ、会社対応、被害回復の方針を検討する
警察からスマートフォンやパソコンの提出を求められる場合があります。まず、任意の提出を求められているのか、令状に基づく差押えなのかを確認します。
その場で端末を操作し、画面や履歴を見せるよう求められることもあります。何について、どの範囲の確認を求められているのかを確かめてください。
不正アクセス事件だから必ず逮捕されるわけではありません。住居や連絡先、呼び出しへの対応、端末や記録を消すおそれ、会社や関係者への働きかけなどが確認されます。
取調べでは、覚えていないことを推測で補う必要はありません。供述調書も、アクセスした日時や操作内容が本人の説明と同じかを読んで確かめます。
会社の調査と刑事事件は別に対応します
勤務先のシステムが関係する場合は、社内調査、人事処分、損害賠償、刑事事件が並行して進むことがあります。それぞれの目的と手続は同じではありません。
会社から事情説明書や始末書の提出を求められた場合は、アクセス日時や操作内容を確認します。記憶が曖昧なまま、会社が示した内容をすべて認めるべきではありません。
一方で、社内資料を持ち出したり、ログを変更したりしてはいけません。同僚へ連絡し、説明を合わせてもらうことも避けてください。
会社に損害が生じたことと、不正アクセス禁止法違反が成立することは別の問題です。ただし、情報を削除した、外部へ送った、取引に利用したという事情があれば、問題の範囲が広がる場合があります。
謝罪や被害回復は事実関係を見てから進めます
相手や会社へ本人から直接連絡すると、証拠への働きかけや口止めと受け取られることがあります。謝罪や被害回復を検討するときは、連絡方法を先に決めます。
無断ログインを否認している場合は、謝罪文の内容が本人の説明と矛盾しないかを考える必要があります。関与を認める場合も、どの操作と損害について対応するのかを整理します。
謝罪や弁償、示談が処分で考慮される場合はあります。ただし、示談が成立すれば必ず不起訴となり、前科を避けられると保証できるものではありません。
警察から連絡があった、会社から調査を受けている、端末の提出を求められたという段階では、相談を検討してください。複数の弁護士から説明を受け、対応方針や費用を比較して決めても構いません。
