財布やスマートフォン、現金、カード類、忘れ物の入った袋などを見つけて、そのまま持ち帰ってしまった、あとで返そうと思っていたのに警察から連絡が来たという状況になると、多くの方は、これは窃盗なのか、占有離脱物横領なのか、すぐに逮捕されるのか、この先どうなるのかと強い不安を抱えます。もっとも、占有離脱物横領の疑いがあるからといって、その時点ですべての結論が決まるわけではありません。まずは、どの犯罪が問題になっているのか、今どの段階にあるのかを落ち着いて整理することが大切です。
一般に「占有離脱物横領」と呼ばれることが多いですが、刑法では「遺失物等横領」とされています。落とし物や忘れ物を持ち帰った場面で問題になりやすい一方で、すべてが同じ扱いになるわけではありません。どこにあった物なのか、まだ誰かの管理下にあったのか、見つけた後にどうしたのかによって、その後の見通しは変わります。このページでは、占有離脱物横領とは何か、窃盗との違い、逮捕と在宅事件、取調べで知っておきたいこと、示談や不起訴の考え方を順番に整理します。
占有離脱物横領とは何か
占有離脱物横領は、一般に、他人が落とした物や置き忘れた物など、すでに占有者の管理を離れた他人の物を、自分のものにした場合に問題になる犯罪です。刑法254条では、遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した場合が処罰の対象とされています。
そのため、道や施設内で見つけた物を、その場で届けずに持ち帰ってしまった場合でも、状況によっては刑事事件として扱われることがあります。軽い気持ちだった、あとで返すつもりだったという事情があっても、それだけで問題にならないとは限りません。
窃盗との違い
占有離脱物横領と窃盗は、近いようで同じではありません。大きな違いは、その物がすでに誰かの管理下を離れていたかどうかです。
公道に落ちている財布のように、すでに占有を離れた物が問題になる場合には、占有離脱物横領が論点になりやすくなります。これに対し、店舗内や施設内で、まだ持ち主や管理者の支配が及んでいると評価される物を持ち去った場合には、窃盗が問題になることがあります。そのため、同じ「持っていった」という場面でも、どこに置かれていた物なのか、誰の管理下にあったのかによって見え方が変わります。
どのような物が問題になりやすいのか
典型的には、財布、現金、スマートフォン、カード類、鍵、バッグ、アクセサリー、自転車、買い物袋など、落とし物や置き忘れとして扱われる物が問題になりやすいです。店舗や施設の中で見つけた物でも、すでに忘れ物として占有を離れていたのか、まだ施設側の管理下に入っていたのかが争点になることがあります。
また、誰かが落とした物だけでなく、盗まれた後に放置されていた物などでも、この犯罪が問題になる場面があります。そのため、見つけた物の由来がはっきりしないから大丈夫と考えるのではなく、そもそも自分の物ではないものをどう扱うべきかを慎重に考える必要があります。
拾った物はどうするべきだったのか
遺失物法では、拾得者は、速やかに、拾得した物を遺失者に返還するか、警察署長に提出しなければならないとされています。そのため、落とし物や忘れ物を見つけた場面では、自分の判断で持ち帰るのではなく、警察や施設側への提出を考えるのが基本です。
もっとも、実際の相談では、あとで届けるつもりだった、持ち主が分からなかった、面倒だと思ってしまったという事情が語られることがあります。しかし、返還や提出をしないまま自分のもののように扱ったと受け止められると、刑事事件として問題になり得ます。
占有離脱物横領で逮捕されることはあるのか
占有離脱物横領でも、事案によっては逮捕が問題になることがあります。ただし、この犯罪が疑われたからといって、必ず逮捕されるわけではありません。逮捕は、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、さらに逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかどうかなどを踏まえて判断されます。
また、逮捕された場合には時間の流れが早く、警察は逮捕から48時間以内に釈放するか、検察官に身柄を送るかを判断し、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に、勾留請求、起訴、釈放のいずれかを判断します。そのため、逮捕が問題になったときは、初動の整理が特に重要になります。逮捕の流れが不安な方は、逮捕された方へも参考になります。
勾留が問題になることもあります
検察官が引き続き身柄拘束が必要だと考える場合には、裁判官に勾留を請求することがあります。裁判官が、逃亡や証拠隠滅のおそれなどを踏まえて必要があると判断したときには、勾留が認められます。
捜査段階の勾留期間は原則として10日間で、やむを得ない事情がある場合にはさらに延長が認められることがあります。占有離脱物横領でも、証拠関係やその後の行動が問題視される場面では、身柄拘束が続くかどうかが大きなテーマになることがあります。勾留については、勾留のページもあわせてご覧ください。
在宅事件として進むこともあります
占有離脱物横領では、逮捕されず、在宅のまま捜査が進むことも少なくありません。この場合、警察から電話や書面で出頭を求められ、事情を聴かれたり、拾得した物ややり取りに関する資料の提出を求められたりしながら進むことがあります。
逮捕や勾留をされていない被疑者は、原則として、出頭を拒んだり、取調べの途中で退去したりすることができます。ただし、在宅事件だから安心というわけではありません。どのような経緯で物を持ち帰ったのか、返す意思があったのか、実際にどう扱ったのかなどが見通しに影響することがあります。在宅事件については、在宅事件とはもあわせてご覧ください。
取調べで知っておきたいこと
占有離脱物横領の取調べでは、どこで物を見つけたのか、そのとき何を考えていたのか、持ち帰った後どうしたのか、警察に届ける考えはあったのかといった点が細かく聴かれることがあります。この場面では、話を整えようとしすぎず、何が事実として言えるのか、何が記憶にないのかを分けて整理することが大切です。
また、被疑者には、自己の意思に反して供述する必要がないことが告げられます。供述が書面にまとめられる場合には、その内容をよく確認し、あとで返そうと思っていたのに最初から自分のものにするつもりだったように書かれていないか、前後の事情が抜けていないかを見る必要があります。内容に納得できないまま署名押印をする必要はありません。取調べについては、取調べを受ける方へも参考になります。
示談や被害回復が問題になることもあります
占有離脱物横領では、物の返還、弁償、被害者側への対応がその後の見通しに関わることがあります。物そのものが戻っているのか、損害が填補されているのか、被害者側がどのように受け止めているのかは、事件全体の中で無視できない事情になり得ます。
もっとも、どの事件でも同じように示談が進むわけではありませんし、本人が感情的に直接連絡を取ろうとすると、かえって問題を広げることもあります。今どの段階で何を優先すべきかを整理しながら、慎重に考えることが大切です。示談については、示談を考える方へもご覧ください。
不起訴や起訴猶予の見通しはあるのか
占有離脱物横領でも、不起訴となることはあります。もっとも、当然にそうなるわけではなく、証拠関係、供述の内容、被害回復の有無、事件後の対応などを踏まえて判断されます。
とくに、起訴猶予が問題になる場面では、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状に加え、犯罪後の情況が見られます。物の返還、被害弁償、謝罪、示談の成立などは、その中で重要な事情になり得ます。そのため、不起訴を考える場面では、軽い犯罪と思い込むのではなく、いま何が問題となっていて、どのような事情を整理する必要があるのかを見ていくことが重要です。不起訴については、不起訴を目指す方へも参考になります。
ご家族が知っておきたいこと
ご家族としては、落とし物や忘れ物を持ち帰ったことで警察から連絡が来たと聞くと、そんなことで逮捕なのか、前科がつくのか、何をすればよいのかと不安になると思います。しかし、初期段階では情報が限られていることも多く、結論だけを急いでも見通しを立てにくいことがあります。
大切なのは、何が問題になっているのか、物はすでに返っているのか、出頭の話があるのか、被害者対応が必要なのかを順番に整理することです。家族の立場からの初動対応は、家族が逮捕された方へも参考になります。
占有離脱物横領で弁護士に相談する意味
占有離脱物横領では、早い段階で事情を整理することに意味があります。どの犯罪が問題になっているのか、窃盗との境目はどこか、被害回復をどう考えるべきか、取調べでどこに注意するべきかは、事件によって違います。
また、被疑者本人だけでなく、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹も独立して弁護人を選任することができます。あとで返すつもりだったという気持ちだけで見通しを決めるのではなく、今の段階で何を優先すべきかを整理することが大切です。私選弁護人については、私選弁護人とはもご覧ください。
占有離脱物横領で大切なのは、早い段階で現在地をつかむことです
占有離脱物横領という言葉に慣れていない方は多く、たいしたことはないと考えてしまうこともあれば、逆にもう終わりだと感じてしまうこともあります。しかし、実際には、被害申告の段階なのか、在宅で捜査が進んでいるのか、逮捕が問題になっているのか、被害回復を考えるべき段階なのかによって、取るべき対応は変わります。
大切なのは、今の段階、争点、被害回復や被害者対応の必要性を順番に整理し、その時点で必要な対応を整えていくことです。その積み重ねが、その後の見通しを考える土台になります。
占有離脱物横領に関するよくあるご質問
占有離脱物横領とは何ですか
一般に、落とし物や忘れ物など、すでに占有を離れた他人の物を自分のもののように扱った場合に問題になる犯罪です。刑法254条では「遺失物等横領」とされています。
落とし物や忘れ物を持ち帰ると、この犯罪になりますか
状況によっては問題になります。落とし物や忘れ物のように、すでに占有を離れた他人の物を届けずに自分のもののように扱ったと評価されると、刑事事件になることがあります。
窃盗とは何が違うのですか
大きな違いは、その物がすでに持ち主や管理者の占有を離れていたかどうかです。まだ管理下にある物を持ち去ったと評価される場合には、窃盗が問題になることがあります。
拾った物はどうするべきだったのですか
遺失物法では、拾得者は、速やかに遺失者に返還するか、警察署長に提出しなければならないとされています。自分の判断で持ち帰らず、警察や施設側に届けるのが基本です。
占有離脱物横領で必ず逮捕されますか
必ず逮捕されるわけではありません。逮捕は、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由に加え、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかなどを踏まえて判断されます。在宅のまま捜査が進むこともあります。
逮捕された後は、どのくらいで次の判断がされますか
警察は逮捕から48時間以内に釈放するか検察官に送るかを判断し、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に、勾留請求、起訴、釈放のいずれかを判断します。
在宅事件では警察の呼出しを断れますか
逮捕や勾留をされていない被疑者は、原則として、出頭を拒んだり、取調べの途中で退去したりすることができます。ただし、何が問題になっているのかを整理しないまま対応するのは避けたいところです。
取調べでは何に気をつければよいですか
どこで物を見つけたのか、その後どうしたのか、返すつもりがあったのかについて、事実と記憶を分けて整理することが大切です。調書の内容に納得できないまま署名押印しないことも重要です。
被害者に返したり弁償したりすると、不起訴になりやすいですか
事件の内容によっては、物の返還、被害弁償、謝罪、示談の成立が、犯罪後の情況として見られ、起訴猶予や不起訴を考えるうえで意味を持つことがあります。ただし、それだけで自動的に決まるわけではありません。
家族が先に弁護士を依頼することはできますか
はい。被疑者本人だけでなく、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹も独立して弁護人を選任することができます。本人が動揺している場面でも、ご家族が先に状況整理を始めることには意味があります。

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